地方中小企業のDX推進で、社長が最初にやることは「何を変えるか」「どの業務から始めるか」「誰が進めるか」を決めることです。さらに、担当者が動ける時間と予算、続けるかどうかを判断する基準までそろえると、現場が着手しやすくなります。
「FAXの注文をExcelに転記している」「詳しい社員が休むと仕事が止まる」「IT担当は総務と兼務」。新潟をはじめ、こうした課題を抱える地方の食品メーカー・製造業・卸売業などに向けて、経営者の役割と最初の進め方を整理します。特定企業の導入事例ではなく、自社の業務に当てはめて使える実務の考え方です。
地方中小企業のDX推進は、経営課題を一つ決めることから
デジタル化を、顧客や会社にとっての変化につなげる
紙をPDFにする、Excelを共有する、といったデジタル化は出発点になります。DXでは、その先に「注文への返答を早める」「担当者が変わっても同じ品質で対応する」など、仕事の仕組みや提供する価値をどう変えるかを考えます。
たとえばFAX受注の転記を減らせても、確認待ちが残れば、お客様への回答は早くなりません。受注、在庫確認、承認、回答までを一つの流れで捉えることが大切です。便利なツールを入れたかだけでなく、お客様と現場の何が変わるかを言葉にしましょう。
社長が現場と共有する「一文」をつくる
「DXを進めよう」だけでは、担当者は優先順位を決められません。「注文内容を探す時間を減らし、担当者が不在でも納期回答できる状態を目指す」のように、目指す状態を一文にします。これは目標の例であり、達成済みの成果ではありません。
経済産業省のDX推進指標も、経営者と関係者が現状や目指す姿、必要な対応を共有し、行動につなげるための自己診断として位置付けられています。全社の認識を整理するときは、経済産業省「DX推進指標」も参考になります。
社長がDX推進で決める5つのこと

1.目的と、最初に変える一つの業務
売上、納期、品質、社員の負担など、何を改善したいかを決めます。そのうえで「受注業務全体」ではなく、「FAX受注の転記と確認」のように、始点と終点を区切ります。小さく試せる範囲から、後で前後の業務へ広げる方法です。
2.推進役と、現場の協力者
社長は優先順位や投資を決め、推進役は課題整理・関係者調整・進行管理を担います。実際に使う社員にも参加してもらい、例外や使いにくい点を伝えてもらいます。人数が少なければ兼務でも構いませんが、相談先と決裁者は明確にします。
3.担当者が使える時間と、予算の上限
「通常業務の合間にお願い」で進めると、繁忙期には後回しになりがちです。社長が既存の仕事を減らす、代わりの担当を決めるなどして、打ち合わせや検証の時間を確保します。ツール料金に加え、初期設定、連携、教育、運用中の修正にかかる費用も見積もります。
4.データを扱うルールと、人が承認する範囲
取引先情報や未公開の商品情報を、誰がどのサービスで扱えるかを決めます。アクセス権限、保存・削除方法、バックアップ、外部サービスの利用条件を確認し、迷ったときの相談先も置きます。見積金額の決定や取引先への回答など、責任を伴う判断は人が承認する運用から始めます。
5.成果の見方と、見直す日
まず現在の作業時間、差し戻し件数、確認待ちなどを記録します。試行後も同じ範囲で比べ、確認や手直しの時間を含めて評価します。数値だけでなく「担当者不在時に引き継げるか」「現場が継続して使えるか」も見ます。目標未達なら、対象を狭める、方法を変える、止めるという判断も社長の仕事です。
FAX・Excel・日報のどこから始めるか
「困っている」と「試せる」を両方確認する
頻度が高い、転記が多い、確認待ちが長い業務は候補になります。一方、元データが集められるか、例外が多すぎないか、失敗したときに元へ戻せるかも確認してください。大きな効果が期待できても、基幹システムとの連携条件が未確認なら、いきなり自動登録まで進めない方が検証範囲を管理しやすくなります。
- FAX受注:転記量と、読みにくい文字・独自略号・商品コードの不一致を確認する。
- 見積:ひな型と価格の参照元をそろえ、値引きや特別条件の決裁を分ける。
- 日報:入力項目を減らし、集めた情報を誰がどう使うかを先に決める。
- 問い合わせ:回答案の下書きと、内容確認・送信を分ける。
FAX受注を例に、AI化の前後を整理する

現在の流れが「FAXを受け取る→Excelへ転記→基幹システムへ入力→担当者が確認」なら、どこで手戻りが起きるかを調べます。AI・OCRによる文字読み取りは、転記の下書きをつくる手段として検討できます。
試行では「読み取り→商品情報との照合→人が確認→確定データを登録」と区切ります。読めない文字、納期変更、通常と異なる数量は人へ回し、不確かな値をそのまま確定しないようにします。基幹システムへ渡せる形式や連携方法も、提供会社と確認が必要です。
ここで測るのは、読み取りの速さだけではありません。確認・訂正・登録まで含めて仕事が楽になったかを見ます。既存のExcelを残しながら一部分だけ試す方法もあります。この流れは説明用の例で、削減率や成果を保証するものではありません。
地方中小企業で続けられるDX推進の進め方

現場の仕事を一緒に見て、現状を記録する
担当者に「困りごとは?」と聞くだけでなく、実際に使う紙、FAX、Excel、メールを順に見せてもらいます。誰が受け取り、どこへ入力し、誰を待つのかを整理します。工場内の通信環境や、取引先が指定する書式なども確認しましょう。
一つの業務で試し、人が確認する
対象の帳票、商品、部署などを絞って試行します。過去データや扱ってよいサンプルを用意し、正解と照合できる状態で検証します。通常の処理だけでなく、訂正、返品、欠損データなどの例外も確認します。
結果を比べ、運用を決めてから広げる
継続する場合は、手順、問い合わせ先、権限、障害時の代替方法、教育担当をそろえます。紙と新システムの二重入力をいつまで続けるかも決めておくと、負担が残り続けるのを避けられます。繁忙期を避けて始めるなど、自社の予定に合わせて段階を分けてください。
「90日」は計画を区切る目安として使えますが、すべての業務を同じ期間で自動化できるとは限りません。データの状態や連携の難しさを見て、試行の範囲と日程を決めます。
DX担当者がいないとき、社長はどう進めるか
兼務担当者に、調整の役割と時間を渡す
ITに詳しい人だけで選ばず、現場の話を聞き、営業・製造・総務をつなげられる人を候補にします。担当者が判断できる範囲と、社長へ戻す案件を決めましょう。複数部署の優先順位がぶつかったときは、社長が調整します。
外部のAI・DX担当者代行に実務を依頼する
社内で推進役を確保しにくい場合は、業務整理、要件整理、AI導入、ベンダー調整、社員教育、進行管理を外部に依頼する方法があります。相談だけで終わらず、誰が何を実施し、何を成果物として残すかを確認します。
依頼前には「現状の業務フローを残せるか」「既存システムの制約も調べるか」「社内へ手順を引き継ぐか」を聞くと、役割を整理しやすくなります。社内には窓口を置き、経営判断と最終承認は会社側で行います。
当社のAI・DX担当者代行を含む3つのサービスでは、一つの業務の支援から会社全体の推進まで、課題に応じて相談できます。食品・包材・印刷の確認業務は、版下チェックの確認項目と見落とし対策も参考にしてください。
社長からよくあるDX推進の質問
社長自身がAIやITに詳しくないと進められませんか?
細かな操作をすべて覚える必要はありません。ただし、何を改善したいか、どの情報を扱うか、誰が判断するかは理解しておく必要があります。分からない用語は、自社の仕事の流れに置き換えて説明してもらいましょう。
古いシステムやFAXを全部なくす必要がありますか?
最初から全廃を前提にせず、取引先との関係や連携条件を確認します。残す部分、入力を省力化する部分、将来変更する部分を分けて検討できます。
最初に高額なシステムを導入すべきですか?
課題や試行範囲が決まる前に契約するのは避け、現在の道具で整理できることも確認します。比較するときは導入費だけでなく、連携、教育、保守、社内の作業時間まで含めて判断してください。
まとめ|まずは社長と現場で、一つの業務を整理する
地方中小企業のDX推進では、社長が目的・優先順位・推進役を決め、時間と予算、成果の見方をそろえることが出発点です。紙やFAX、Excelが残っていても、現在の流れを整理し、一つの業務を試すところから始められます。
最初の打ち合わせでは「何に困っているか」「誰が進めるか」「いつ結果を見直すか」の3点を決めてみてください。ツール名が決まっていなくても構いません。
レイト ブルム ブランディングでは、業務の棚卸しからAI導入、ベンダー調整、社員教育、進行管理まで、AI・DX担当者代行として支援します。「FAXの転記を減らしたい」「社内に担当者がいない」など、いま困っていることからお問い合わせください。
